【脚本 藤井邦夫 監督 辻 理】
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おそらく、この話は「良い」という人と「悪い」という人とに、極端に分かれる気がする。
私としては、好きな話である。
家族のために働いてきたのに、その家族からは邪険にされ、あまつさえ左遷され、窓際族として定年を迎えるだけのサラリーマン。
その窓際族が、家族から「自分のもの」を取り返す為に起こした事件。
しかし、その動機の裏には、自分を必要としてくれている人たちのために、という思いもあったのだ。
やはり人間は、支え、支え合うことで生きていけるのだということを、テーマとして内包している話なのだと思うのである。
この回の脚本は藤井邦夫さんであるが、「誘拐ルート・追跡の5時間!」でもそうであるが、特定人物にフォーカスする話より、事件全体を俯瞰して、その中で個々の人物を描くとき、藤井さんの筆が威力を発揮しているように思われる。
ただ、もうちょっとここがな、という点をあげると、いくつかある。
まず、杉山純子。彼女がもう少し「事件」に関わっていると、もっと面白かったかも。いや、関わるどころか「黒幕」だったとしたら…。佐藤五月さんなら、きっとそうした…か?
もうひとつは、北島の家族。身代金を用意して、犯人指定された口座に振り込む直前、大金を目の前にして、「やめて!お金返して!!」と「本音」を出して取り乱す奥さん。あの描写は、実に良かった。
ならば、それをもっと極端にして、親父を完全に邪魔者にしていた息子に「親父が犯人に殺されれば、保険金が入ってくるからカネは戻ってくる」とか言わせて、そいつを時田か紅林に殴らせる、なんて場面があっても、北島に対する「家族の本音」が表現できて面白かったのではないか。
まぁ、ちょっとやり過ぎの感がなくはないが。
ともあれ、派手さはないものの、この時代の社会問題を作品を通して描いた、佳作といってよいのではないだろうか。
(2011/10/29)