【脚本 長坂秀佳 監督 天野利彦】
おのれ、タイタンめ!
◆ ◆ ◆
350回記念。
津上刑事役の荒木しげるさんが「出たい」と言ってきたので作った回(?)。
殉職した津上が、細菌爆弾の事件に巻き込まれる直前に、少年としていた約束。
それは、忍くんのお父さんがひき逃げされ、死亡した事件。
裁判は、加害者側の言い分だけを認めた。被害者・忍くんのお父さんの秋本さんは、歩行者信号が赤なのに渡ったと。
しかし、忍くんは、お父さんは青で渡っていたと主張。津上は、彼と彼のお父さんの正しさを証明する約束をしていた。
しかし津上は、その直後に殉職。約束は果たされぬまま、そして、忍くんは津上が死んだことを知らぬまま、4年が過ぎていた。
その、残された約束を、特命課の刑事が津上に代わって果たそうとする話。
かつての特命課、高杉と滝も合流して、大々的な捜査が行われる。
「4年前の交通事故の被害者に落ち度はなかったという証明。易しそうに見えて、それは至難の証明であった」
オヤジさんのナレーションにあるとおり、捜査は困難を極める。
しかし、津上が生前に残した言葉や行動が、捜査の進展につながり、突破口を開く。
この展開は、「殉職」編後半でも見られた手法(長坂さんは、津上刑事の遺言の時に発明した、と思っていたそうだ)。
また、「自分だけが津上さんを知らない」と、ひとり焦っていると語る叶。その叶が、万策尽きたかに見えた捜査に光明を見出す役回りになっているのも、粋な計らいである。
ただ、この名作に水を差すようで心苦しいが、この回ではどうしても、ひとつ気になることがある。
それは信号の色をを判明させるところである。
あの場面、事故時の信号が「青」になって「ん?」と思ったのは私だけだったのだろうか。
あの近辺のやりとりを丹念に何回も確認したが、「誰の側から見た、どの信号の色を再現する」とは、明確に述べられていない。
まあ、作中ではずっと「秋本さんは青信号で渡った」ことを証明しようとしていたので、当然、秋本さんから見た、歩行者用の信号だろうと思っていた視聴者は多かったであろう。
ただ、私は、直前のやりとり、またはモニターに映し出された信号の「かたち」から、自動車側から見た信号なのかと思ってしまった。
つまりそうなると、秋本さんが正しかったならば、モニターの信号は「赤」にならなければならないのではないか、それで、青になったので「あれ?」と思ったのである。
ご覧になった方は、どのように思われたであろうか。
また、細かい話ではあるのだが、おばあちゃんの話をしたのが、兄と言葉を交わした最後だとトモ子が言っていたが、厳密にはこれは間違い。
実際には「殉職」前編で、アパートを張り込む津上に「毒にも効く」と言ってお守りを届けたのが最後。
まあ、あの時代なので、執筆前にビデオで確認するということもかなわなかったのであろう。それはそれでいいと思う。
少々矛盾があったとしても、「この日付を見ろ、この翌日から俺たちはあのボツリヌス菌の大騒動に巻き込まれて…」の方が良かったように思う。
そんなことがあるにせよ、ラストにかけての「全特命課刑事大集合」のシーンは圧巻。
手法の違いとはいえ、他の刑事ドラマのようにレギュラー刑事をむやみに殉職で降板させず、大事にしていたことが、このシーンを生んだともいえる。
しかも、荒木さんのインタビューによれば、たまたまこの日の撮影に合わせたように、大雪が降ったとのこと。
おそらく、このシーンの撮影は、はじめから「この日」しかチャンスがなかったことは想像に難くないので、まさに特捜という作品がもたらした「奇跡」と言えるのではないだろうか。
そして、作品の要所で流れる「いい日旅立ち」も、おおいにドラマを盛り上げた。
ラスト、夕陽に浮かぶ津上を見る特命課の面々。このあたりではもう、前述の疑問や矛盾などどうでもよくなる。まさに涙腺崩壊である。特に橘の表情がいい…。
まさに、記念回にふさわしい大傑作であるが、津上の残した仕事を、凶悪事件ではなく、交通事故、そして少年との約束を守るためというのも、実に特捜らしくていい。
しかも、大事件であろうが交通事故であろうが、愛するものを失った悲しさに違いはないということも示されており、その点もまた秀逸であった。
この回、前述のように、高杉役の西田敏行さん、滝役の桜木健一さんも、久々に出演。
しかし、西田さんだけ「特別出演」になっているのはなぜダラウ?
相変わらず「抜け」が多い高杉だが、その分(?)ラストのセリフは高杉によるものであるが、あれはもしかしてシナリオにはない、西田さんが考えたらアドリブ?
そして、忍くんのお父さんをひき逃げした男・大牟田の役で、紳士タイタンこと、浜田晃さん登場!
浜田さん自身は特捜には度々出演しているが、ことこの回に関しては、やはり「仮面ライダーストロンガー」と連動させた、特撮ファンへのサービス?
ちなみに、はじめて大牟田の家をオヤジさんが訪れて、大牟田がシラをきった直後に映る津上の写真は、まさに「おのれタイタン!」と言いたげな写真に見えません?
さらには「殉職」編にも出演した谷村隆之さんが、4年後に違う役で出演。「分かる人には分かる」というサービスというか、凝りようである。
冒頭、忍くんから送られたハガキを読みながら「しねー、馬鹿野郎、地獄へ行けー」と、ボソボソっと言う、桜井。
かえって恐いです。
ところで、高杉と滝は、特命課で一緒だった時期はないはずだが…。別のところであったことが会ったのか?もしかしたら、滝のラーメン屋とか。
その高杉に「懐かしいなぁ〜、訛りとれてね〜」という滝。
それに対し「当りめぇだおめぇ、俺がそう簡単に垢抜けっか!」という高杉。
やはりこれは、西田さんのアドリブだそうで…。
てか、現場にラーメンは迷惑だろう、滝。せめてギョーザにしろ、ギョーザに。
ラストの津上の映像は、殉職編の流用…あ、太陽がふたつある!
(2011/11/02)