【脚本 長坂秀佳 監督 天野利彦】
津上!お前の命の方が大事なんだ!
車を捨てろ津上!!
車を捨てろ津上!!
◆ ◆ ◆
特捜最前線、初のレギュラー刑事殉職編。
もともと、この作品は「レギュラー刑事の殉職は絶対に描かない」ということで始まったシリーズであったのだが、津上刑事役の荒木しげるさんが、他のドラマに出演するにあたって、役者としての幅を広げ、もっと勉強したいので、戻ってくる余地がないように殉職にしてほしい、という希望があったため、この前後編が作られたという。
で、やるからには「なんじゃこりゃ〜、なんてのは絶対やりたくない」という長坂さんにより、「死体の残らない殉職」というコンセプトのもとで「車で自爆する」という展開になったということである。
(本当は飛行機にしようと思ったけど、特撮とか予算の関係で車になったとのこと)。
暴力団幹部の結婚式場で、ボツリヌス菌による大量食中毒事件が発生。
特命課は、ボツリヌス菌持ち出しの罪で誤認逮捕された「山崎」という男が事件に絡んでいるものとみて、山崎の女・亜矢子の働いているクラブに、津上をバンドのドラマーとして潜入させ、山崎の行方を探るが…。
この回では、はじめは津上に嫌悪感をもっていた亜矢子が次第に打ち解けていく様子、その亜矢子を見る津上に否定的な態度をとる特命課刑事、そして亜矢子の息子・サトルまでも事件解決のために利用しようとする、非情な課長との決定的な対立が描かれる。
これら全てが津上の人間性、特命課との絆とを描く後編を構成するための前提となっており、展開が緻密に計算されていることがうかがえる。
「あんたに人間の血はないんですか!?サトルくんを道具に使うのはやめてくれ!!」
と、課長に叫ぶ津上。そして、山崎が「本ボシ」撃たれ、殺されたことを知り、
「あんただ…殺したのはあんただ!!」
と、課長に詰め寄る津上。
このフレーズは第50話「兇弾・神代夏子死す!」でも出てきたものだが、「誰よりも弱いものの心を知る」津上の信条、そして後に津上を失うことになる神代のとった行動との対比として、重要なやりとりとなっている。
ラスト、ボツリヌス菌の詰まった風船爆弾を車にのせ、爆発する前になんとか街を出ようと車を爆走させる津上と、それを追う特命課。
「車を捨てろ!」と津上にいう課長であるが、
「ドアを開けたら、菌が漏れる!!」
と、頑なに拒否する津上。
しかし、追う特命車は、全車窓全開。こんなところにも「津上を大事に思っている仲間たちの絆」が描かれている。
このあと津上はどうなるのか…という高揚感と「私だけの十字架」の流れる中、後編へと続く…。
この回、クラブの掃除係として登場したのは「恐竜戦隊ジュウレンジャー」のバーザ役として特撮ファンにも知られる、多々良純さん。
この回では、たいして重要な役回りには見えなかったが…。
また、この回にサトルくん役として登場した谷村さんは、4年後の「津上刑事の遺言!」でも、違う役で再登場する。
なお、津上役の荒木さんは「本物」のドラマーであり、劇中のドラムも、本人が本当に叩いている。また劇中に流れるドラム曲も、本人の演奏によるもの。荒木さんによると、その後1クールくらいは、別の話でも使われていたとのことである。
(2011/11/23)
【この回はこのDVDに収録されています】
特捜最前線 BEST SELECTION BOX Vol.1