特捜最前線 第430話 昭和60年夏・老刑事 船村一平退職!


【脚本 塙 五郎 監督 天野利彦】

ちょっとちょっと! ブルマ、ブルマですよ奥さん!

◆   ◆   ◆

「私が30年の刑事生活の中で分かったことは、たったひとつだ。
それは、人間っていうのはねぇ、
ずるくて、汚くて、
あさましくて、いやしくて、嘘つきで、恐ろしくて、
そして、弱くて、悲しいものだってことだ」

おやじさんこと船村刑事の、レギュラー出演最後の話にして、塙五郎の“特捜最終作”。

塙脚本が本作で最後になったのは、決まっていたことなのか、たまたまなのかは不明だが、いずれにせよ、これが最後の特捜ということもあってか、先に書いたおやじさんの言葉は、まさに塙五郎氏にとってのテーマとも考えられる。

そして、これがまるで、塙氏の“遺言”のようにも思えてしまう。

さて、一度目の退職となる『裸の街』編や船村復帰編、そしてハワイ編など、おやじさんにとって節目となる話を書いてきた塙氏が、二度目の船村退職編を書くという流れは、いわば当然とは言えるが、その出来が、果たして視聴者が期待したほどのものだったかとなると、正直疑問符をつけざるを得ない。

心臓がかなり悪く、また名前も知らないが、刑事になって初めて犯人を逮捕したこの坂を上れなくなったら刑事をやめようと思っていたおやじさん。

そんな中、その“初めて逮捕した男”が起こした強盗殺人事件を追う中で、その男が実は“無実”だったことを知るおやじさん。

そして、その男を逮捕した後、おやじさんは辞表を出して、特命課を去る。娘には「辞めたくない、辞めたくない…」と、本当の心情を吐露して。

と、いうのが、船村2回目の退職編のあらまし。

「はじめて逮捕した男が、実は無実」というテーマは良いと思うのだが、話の内容自体は、もう少し何とかならんかったもんか、というのが、ワタシの感想。

30年前の事件そのものは、おやじさんが考えていた内容は、

「妻の愛人の男が、夫を殺して、娘が残された」

というものだが、実際は、

「夫を殺したのは妻の方で、娘は夫婦の子ではなく、妻と愛人の男のと子供であった」

というもの。

言っちゃ何だが、こういう内容自体が、ハッキリ言ってツマラナイ。

また、“無実の罪で逮捕されて30年間の人生をフイにした男の悲しみ”でも描こうとしたのかもしれないが、前述したように、男の行為自体が決して誉められたものではないので、この男に対し、ワタシとしては何の感情もわかない。

あまつさえ、学校の職員を殺した事件はまだ分かるとして、その後おでん屋や映画館主を殺傷したことについては、あまりにも支離滅裂過ぎて、意味が分からない。

まあ、どっかの話で「悪党に理屈など無い!」と神代課長が言ってたが、その一言で片づけられてしまったら、ドラマ自体が意味をなさなくなる。

最後は、「女と逢い引きした坂に、男はきっと戻ってくる」とにらんだ船村の言葉通り、男は坂に現れて、船村に逮捕されるのだが、この「おやじさんの退職」と「30年前の男」とを結びつける“坂”という要素も、イマイチ完全に機能しきれていないように思うのは、ワタシだけであろうか。

で、結局、坂を上りきれず倒れたわけでも、心臓の病でダウンしたわけでもないのに、船村は辞表を出す。

まあ、「無実の男を長い間、刑務所に入れた」ことを知ったことによるショックがそうさせたのかもしれないが、それに相当するような辛い思いは、今まで数多く特命課で経験してきたおやじさんだけに、そして肝心の話がイマイチなだけに、それで辞めるというのも、理由としては弱い気がするのだが。

というわけで、ワタシとしては、『ビーフシチューを売る刑事』で復帰するというのも、この話で退職するするというのも、話自体が微妙なので、納得がいかないというか、消化不良な感はぬぐえないのである。

ただ、絶対に評価されるべきは、他のドラマのように「番組降板=殉職」という、安直な話にしなかったことである。

と書いてしまうと、直後に“殉職”した吉野には申し訳ないが…。(それはつまり、「特捜」らしく、吉野も殉職にはしてほしくなかった、というワタシの希望なのだが)

前述したように、この話は、「特捜」最後の塙五郎脚本。

こう書くと、塙脚本が好きな特捜ファンに怒られそうだが、ワタシとしては、ある程度の本数の脚本を書いた作家の中では、“最も相性の悪かった脚本家”が、塙五郎氏だった。

もちろん、全ての話がそうではないのだが、どうも“ワタシには理解不能の人間が、理解不能な行動をとって、全く感銘も受けなければ共感もできない話”というのが、多かった気がする。

さらに、ワタシが“良くない”と思った塙脚本回の中には、“一般的には傑作と評価されている回”が、少なからず含まれているのである。

それは、ただ単に“相性”なのか、それともワタシの“人間性”に問題があるのは、もしくは両方か、それはハッキリとは分からない。

ワタシはまだ「特捜」を見始めて10年も経っていない、若輩者ゆえ、塙脚本の良さが分からないのだと、塙脚本ファンからは言われるかもしれない。

ならば、せめて後10年経って、あの頃は良いと思わなかった回を見てみようと思う。もしかしたら、あの頃とは違う感想が、ワタシの中に生まれるかもしれない。

ともかく、おやじさんの退職とともに、特捜の「黄金期」は終わりを告げることになる。

話の評価はともかく、「特捜最前線」を、ここまでの名作ドラマにする大きな一因であった船村刑事に、大いなる拍手と敬意を送りたいのである。

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